学校におけるWBGT(湿球黒球温度)の活用を含めた熱中症の予防対策について

日本薬剤師会学校薬剤師部会幹事 畑中 範子

こんばんは。今年も猛暑の夏で、朝からテレビなど、熱中症の話題が報道されております。

まず最初に、今年のデータをご紹介致します。

総務省消防庁のホームページからの情報ですが、8月5日~8月11日の速報値では、都道府県別熱中症傷病者搬送人員数は、1番が東京都で3, 156人、2番が愛知県で2, 956人、3番が大阪府で2, 579人、ついで埼玉県、神奈川県になっております。年齢区分では、熱中症搬送人員9, 815人中、成人が44.2%、高齢者が42.4%、少年が12.9%、乳幼児が0.5%になっており、軽症は63.0%、中等症が31.5%、重症が3.0%、死亡が0.2%になっております。

今年の熱中症による救急搬送状況を週別に見ますと、5月第5週の354人から徐々に増え始め、6月第3週は、1,735人と前の週の3倍になり、7月第1週には、2,801人、そして7月第2週は、いきなり11,427人に増え、次の週は4,319人に減りましたが、8月第2週にまた9,815人に増えました。

6月の第3週が増えたのは、西日本を中心に猛暑日を記録するなど暑さが続いた影響で搬送人数が増えたとみています。また、7月の気温が上がった理由としては、梅雨明けが早かったのと偏西風が弱かったために、太平洋高気圧におおわれたのが原因だそうです。

日本学校保健会のホームページによると、部活動の場合、昭和50年から平成22年の場所別・スポーツ種目別発生傾向では、1番野球が多く、次にラグビー、柔道、サッカー、剣道、山岳、陸上、ハンドボール、バレーの順になっています。屋外で行うスポーツに多く発生していますが、屋内の防具や厚手の衣服を着用しているスポーツでも多く発生しています。

また、学校行事等 部活以外の場合、登山が1番で、その後、マラソン、長距離徒歩、遠足、サッカー、リレー、石段のぼり、農園実習、保育中になっており、長時間にわたって行うスポーツ活動に多く発生しています。学年・性別では、高校1年生が1番多く62人で、男子が60人、女子が2人になっています。次に、高校2年生が37人で、男子が35人、女子が2人、ついで中学2年生、高校3年生、中学1年生になっており、圧倒的に男子が多く発生しています。

学校における熱中症になった事例を紹介しますと、高等専門学校2年生男子、野球部の夏合宿中、最高気温35℃の晴天の中で練習を終えた後、6km離れた宿舎まで上級生と水分補給しながら到着し、水シャワーを浴びるころから、会話の様子に異常がみられ部屋に運んだ。その後呼吸が苦しそうになったため気道確保したが、しばらくして反応がなく、呼吸も激しくなったため、救急搬送されました。高等学校2年生男子、夏期休業中、ラグビー部の県外合同練習に参加し、他校チームと25分ハーフの試合後、日陰で20分程、ミーティング、給水などをした。次の試合まで2時間以上あったので、30分のランニング練習に入ったが、60mグループ走の途中、指導教師が生徒の顔色が悪いのに気づき、中止を指示。日陰に横にさせたが、吐き気が続くため、救急搬送されました。高等学校1年男子バレーボール部活動中、体調が悪くなったので見学し、部活動終了後、友人と一緒に下校していた。自転車を押しながら、ふらふらしつつも、のぼり坂を上がった時、後づさりしながら後ろに倒れた。友人が渡したジュースを1本飲んだ後、意識がなくなり、けいれんを起こしたので、救急搬送されました。小学校6年男子 5、6年生合同の遠足中、班別でオリエンテーションをし、出発後60分、2キロ程のところで、児童の足がもつれてきたため、木陰で休ませ、お茶を飲ませるなどしていたが、顔色不良、口からよだれのようなものをたらし始めたので、救急搬送されました。

熱中症とは、体内の水分や電解質の欠乏で起こる高体温そのものによる臓器障害の総称で、この「体内の水分や電解質の欠乏」が脱水症状であり、注意が必要となります。

ところで、WBGTをご存知でしょうか?

WBGTとは、Wet-Bulb Globe Temperature湿球黒球温度のことです。スポーツ活動や労働時の熱中症予防の温度指標として有効です。これは、暑さ寒さに関係する環境因子(気温、湿度、輻射熱、気流)のうち、気温、湿度、輻射熱の3因子を取り入れた指標です。乾球温度、湿球温度と黒球温度の値から次の式で計算されます。日射のある屋外と日射のない室内では計算式が異なります。

 

・屋外で日射のある場合:WBGT = 0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度

・室内で日射のない場合:WBGT = 0.7×湿球温度+0.3×黒球温度

熱中症予防運動指針は、熱中症予防8か条をふまえたうえで、実際にどの程度の環境温度でどのように運動したらよいかを具体的に示したものです。日本体育協会(2013) 熱中症予防運動指針によりますと、

気温
(参考)
WBGT
温度
熱中症予防
運動指針
35℃以上31℃以上運動は原則中止
WBGT31℃以上では、特別の場合以外は運動を中止する。
特に子どもの場合は中止すべき。
31~35℃28~31℃厳重警戒
(激しい運動は中止)
WBGT28℃以上では、熱中症の危険性が高いので、激しい運動や持久走など体温が上昇しやすい運動は避ける。
運動する場合には、頻繁に休息をとり水分・塩分の補給を行う。
体力の低い人、暑さになれていない人は運動中止。
28~31℃25~28℃警戒
(積極的に休息)
WBGT25℃以上では、熱中症の危険が増すので、積極的に休息をとり適宜、水分・塩分を補給する。
激しい運動では、30分おきくらいに休息をとる。
24~28℃21~25℃注意
(積極的に水分補給)
WBGT21℃以上では、熱中症による死亡事故が発生する可能性がある。
熱中症の兆候に注意するとともに、運動の合間に積極的に水分・塩分を補給する。
24℃未満21℃未満ほぼ安全
(適宜水分補給
WBGT21℃未満では、通常は熱中症の危険は小さいが、適宜水分・塩分の補給は必要である。
市民マラソンなどではこの条件でも熱中症が発生するので注意。

湿球温度は、気温が高いと過小評価される場合もあり、湿球温度を用いる場合には、乾球温度も参考にします。また、乾球温度を用いる場合には、湿度に注意で、湿度が高ければ、1ランク厳しい環境条件の注意が必要です。

しかし、現場では天侯や児童生徒数、ろ過機によって、安全で衛生的な環境を維持管理する事は容易ではなく学校薬剤師の助言等が求められるところでもあります。

昨年、正規WBGT(A社)、簡易WBGT-103(K社)、TT-544(T社)、環境管理温湿度計 (E社) 、歩数計付き携帯型熱中症計(D社)、携帯型熱中症計(D社)の装置を用いてWBGTを算出しました。その結果、正規の測定方法では、黒球温度計・湿球温度計ならびに計算式から算出するため煩雑ですが、簡易WBGT測定器では、誤差はありますが、操作方法が簡単で、気温、相対湿度、黒球温度も測定でき、その上、携帯に便利で、十分活用できる結果が得られました。

学校における熱中症事故が起こらないためにも予防対策が必要です。「暑い時は無理をさせない」のが一番大事なことですが、「暑さ指標」となるWBGTをしっかり活用するということも有効なことです。体育館や校庭に簡易WBGT測定器を設置し、体育の授業や部活動の時、運動指針の「運動は原則禁止」に相当するWBGT 31℃をボーダーラインに、指導してもらうことも必要です。

医療機関に運ばれて『水は飲ませた』という人は多いですが、水だけを飲ませると必要な塩分が薄まってしまい、症状が改善されないことも多いです。塩分を必ず一緒に補充して下さい。

自分の意思表示ができない幼児はもちろん、小学生でも自覚がないうちに熱中症になることも少なくないです。短い時間でも放置は危険。長時間、子どもが喉が渇いた自覚がない時でも、時間ごとに水分を補充して下さい。水分の組成としては0.1〜0.2%の食塩と糖分を含んだものが有効です。運動量が多いほど糖分を増やしてエネルギーを補給しましょう。特に1時間以上の運動をする場合には、4〜8%程度の糖分を含んだものが疲労の予防に役立ちます。これには、冷えたスポーツ飲料が手軽ですが、自分で調製するには、1リットルの水にティースプーン半分の食塩(2g)と角砂糖を好みに応じて数個を適宜混ぜて作ることもできますし、レモン果汁を入れると飲みやすくなります。 薬局・薬店では経口補水液と呼ばれる、からだに馴染みやすく、脱水症状のケアに有用な商品が販売されています。経口補水液とは、水に主に糖分(ブドウ糖)、塩分(ナトリウム)を混ぜたもので、脱水症状の改善に用いられます。吸収しやすくするため、配合のバランスが重要です。途上国では感染症などに伴う脱水対策として輸液に代わる脱水療法とされています。保健室等に常時冷やしておくのもいいかと思います。

学校における熱中症の予防への指導は、学校保健安全法にある学校薬剤師の職務としての保健管理に係わる保健指導に該当するものですので、必要に応じた細かいアドバイスができるように心がけておく必要があると思います。

総務省消防庁、環境省熱中症予防情報、日本学校保健会、日本体育協会、大塚製薬のホームページを参考にお話させて頂きました。

(ラジオNIKKEI:2013.8.27放送)